中学受験体験記 アン・ローズHomestudy<14>
<14> 【小4・3学期】
たくましく根を張れ
おばあちゃんに遊園地に連れて行ってもらった後は、結局家庭学習の時間はまた減った。
1日せいぜい15分程度といったところか。
それでもカリテの復習はしっかりやっているようなので、もうそれでいいかという気になった。

授業には集中しているようだ。
先生方がとても楽しい授業をしてくださるらしく、「こんな面白いことを言ってた」と自分からよく話すようになった。

塾からの帰り道。最近、駅まで迎えに行くようにしている。
塾の同じクラスで仲良くなった友達が、いつもトーイが使っている駅の次の駅で降りるのだそうだ。
だからトーイもその次の駅まで一緒に乗って帰りたいと言い出した。
電車賃は同じ。うちからの距離は少し遠くなる程度。
そうだよね。一緒の駅で降りる、嬉しいよね。

その駅から自宅までの道は静かな住宅街で、夜はやはり心配で。
だから駅まで迎えに行くことにしたのだ。

日に日に暖かくなって。雨も降らず。自転車を並べて帰る静かな夜道。
そんなときトーイが、塾の先生の「笑えた話」を楽しそうにしてくれる。
「イモリはね、両生類で、ヤモリは爬虫類なんだよ。『間違えるな』って。」
ふむふむ。
「で、『他にタモリは哺乳類だからこれも間違えないように』、って言うの。」
話しながら、途中からもう笑っている。
そ、そんなにおもしろい?(^^; と思うのだけど、本人は最高にウケているようだから茶々はいれないでおく。
もう植物は終わったのか、動物に入ったんだなぁ、などと母は思っている。

算数も社会もこんな調子で、先生のギャグを教えてもらって、今習っている内容を少しだけ垣間見ることができる。
国語のギャグの話があまりないのはなぜかしら。<先生がんばって(違)

時折内容の質問をしてみるとちゃんと答えるので、授業は集中してしっかり聞いているんだなと思ったわけで。
毎回の帰り道の、10分程度の会話がそのまま、その日の復習にも(多少は)なっているんじゃないかと。
そして翌朝、前日習った範囲の自宅用テキストを10分から15分ほど勉強する。
今はもう、それでいいかという気になったわけです。

朝は相変わらず5時には起きている。
勉強時間が以前より減ったから、なんだか手持ち無沙汰のようで、放っておくと朝からゲームをしかねない。
だから庭の手入れを手伝ってもらうことにした。
雑草抜き。助かります^^

助かるだけじゃなく、気付いたらそれが理科の勉強につながっていた。
苦手だった生物の、特に植物の範囲が目に見えてできるようになってきたのだ。

元々トーイは、園芸植物の名前などはよく知っているほうだったと思う。
でも受験ではあまり関係ないらしい。
四谷大塚のテキストでは、そういえば雑草ばかりが出てたなぁ。
雑草抜きを手伝うようになって、試験に出るような草がようやくわかってきたらしい。
タンポポ、ヒメジョオン、ドクダミ、カタバミ…。
やはり体験することは大事だなとあらためて思う。

「この草はなんていう名前?」などと聞いてくるようになった。
わかれば答えるし、知らなければ一緒に図鑑やネットで調べる。
それもまた楽しい。

「単子葉植物」や「双子葉植物」なんていう小難しい用語もだいぶ肌でわかってきたようだ。
バラの葉のぎざぎざを見て「これは双子葉植物だね」などと一丁前に使っている。
「じゃあ単子葉植物はどーれだ?」と言うと、スイセンやチューリップを指差す。
「どうして?」と聞くと、「葉っぱがすっとまっすぐで、葉脈が平行だから。」
そうだね。でも気をつけて。例外もあるよ。リンドウは平行脈だけど双子葉。
部屋にあるポトス。網状脈だけど、あれは単子葉なのよ。サトイモ科は要注意だね。
「へえ。今度どこかでサトイモの葉っぱも見てみたいね。」
うんうん、見たいね。

ラベンダーの鉢を持ち上げたら、鉢底から地面に根を長く下ろしていたのを発見。
わぁ、すごいね、と言いあいながらふと思いついて、「じゃあラベンダーは単子葉?双子葉?」と聞いてみる。
「ええと…、ちょっと待っててね」部屋に上がって、どうやらテキストを開いているらしい。
ばたばたと戻ってきて、もう一度根を確認してから「双子葉!だって太い根に細い根がいっぱい枝分かれしてるから。」
OK、正解。
「でもテキスト見ちゃったからだめかなぁ?」と言うので、「別にテストじゃないんだからかまわないよ」と言うと嬉しそうにしている。
たとえテキストでも「自分で調べた」経験はずっと記憶に残るよ、きっと。

でも。
手を洗ってからにして欲しかった。
テキスト泥だらけだよ…。

毎朝のようにそんな会話を、草むしりをしながら続けている。
どこかのお庭の沈丁花が、素晴らしい香りをわけてくれる穏やかな朝。
ほんの15分程度の時間だけど、雨が土に染みていくように少しずつ、苦手だった植物の分野を楽しく思うようになってきたらしい。
カリテも模試も、ほとんどここまでは生物の範囲だ。
点を落とさなくなってきたのは、草むしり効果かなと密かに思っている。

カリテ後の席順は、応用の点数ではなくて、どうやら「順不同」に決めているということがわかった。
「先生がパソコンでランダムに席決めしてるんだって。」
それがわかってから、憑き物が落ちたように席順のことは気にしなくなった。
いいこと。
いちいち席が替わるたびに気にしてたら、何のために勉強するのか見失っちゃうよ。

席順だけでなく、偏差値も順位もあまり気にならないらしい。
(ただカリテでもらえる栄冠ポイントだけは気にしている。
相変わらずご褒美に釣られている…。)

一緒に自転車で並んで走ったり、素直に草むしりを手伝ってくれたり、そしてたくさんの会話。
たぶんもう数年したらそんなこともしなくなって、ただただ「あの頃」を懐かしく思い返すことになるのだろう。
精神的に自立し、親のことはうっとうしくなっていって。

今はただ、わたしにとってもトーイにとっても貴重な日々を、じっくりと過ごすことに気持ちを注ごう。
入試までのあと2年間、出来る限り数字に振り回されずにいたい。
健康でいられること、知への欲求、親子の会話、規則正しい生活リズム、笑顔…。
言葉にすればあたりまえのことだけれど、そういう基本的なことが、充実した毎日を送る土壌になるのだろう。
鉢底を突き抜けて大地に根を張ったラベンダーのように、トーイにも今はまずしっかりした根張りをしてほしいと思う。

まずはわたし自身が大切なことを見失わずにいよう。
勉強とは、決して「させるもの」ではないことをもう一度思い返そう。

トーイが強い根を張るためにわたしができることは、決して「根を張れ〜」と言い続けることではない。
太陽も風も雨も、自然のものであって、わたしがコントロールできるものでもない。
必要以上の水を遣らない。必要以上の肥料をやらない。

出来ることといえば、
毎日忘れずにそばにいって会話をする、
もしも病気だったら適切な治療が施せるように心を砕く、
そして昨日より今日は確実に育っていることを共に喜ぶ、
これくらいだろう。

1年草ではなく、多年草あるいは大きく育つ樹を見守るのだから、
今すぐに花を望まなくていい、そんなことも思う。

強く、たくましく育て。
そしていつか、花を咲かせ、実を結び、その全ての過程で、誇り高く今を楽しめ。



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